トミンの「遼くん」をやっつけろ!!

なし塾レコード「26.39」
打ち立てた石川選手を倒すには!?

   塾長 梨本圭の特別寄稿


「2009シーズン なし塾虎の巻」


 昨年10月のなし塾、なし塾決勝レースであるK−RUNのAクラスにおいて、石川選手が実に見事な走りをして26秒3という驚異的ななし塾コースレコードを打ち立てました。

 これは過去に常勝であった岸本選手をはじめ、佐藤選手や北山選手、後藤田選手、鈴木選手等がマークしたタイムを大きく凌ぐ、素晴らしいものでした。ちなみに彼のマシンはCBR600RRのホワイトベース、タイヤはピレリです。

 ではまず、改めてトミンのタイム考察をしてみたいと思います。基本的には

http://diary5.cgiboy.com/3/knancy/index.cgi?y=2005&m=1#31

を参照してください。

 今回はちょっとレベルの高いハナシというか26秒台以下に絞っていきたいと思いますが

「26秒5〜6・・・26.7とたったコンマ1〜2秒しか違わないのに、走りをすべて変えないと到達出来ないライン。梨本塾においては26.5というのはカイ、キッシー、タンパン含めて未だ未到タイムのはず。ちなみに今回レコード更新をした際に、ガンマ250にスリックタイヤという面白い組み合わせで走っている人がいて、その人の当日のベストが26.6だったそうだ。250スリックの2stマシンで走る場合には方法論、物理現象ともに大きく異なるが、恐らく今までトミンで見た一般ライダーの中では彼が最速だった。

 26秒3〜4・・・エッジテストにおける限界値付近だが、仮にタイヤだけをハイグリップに換装していても、この辺でバランスしてしまうことがよくある。これより上げていくには、かなり綿密にサスセッティングをしていかないと厳しい」

というようなことを約3年前に記述しています。

 これは今でもまったく変わらない理屈です。つまり26秒5と、26秒3では何もかもが大きく異なる、ということです。恐らくツインリクもてぎであれば、2分3秒程度と2分0秒程度の大きな違いになるでしょう。

 例えばどんなマシンでも(極端に偏りがなければ)ある程度のグリップレベルのタイヤに換装し、少しサスをイジれば、トミンの26秒5というのはプロならそんなに難しいものではありません。国際ライセンスを持っているライダーなら誰でも出せるタイムじゃないかと思います(出せない人はライセンスだけでなくセンス的にもかなり問題があるかもしれません………)。

 では、アマチュアとプロで何が違うかといえば「加減速」につきます。逆にコーナリングスピードそのもので言えば、26秒5も28秒もそんなに大差ないのです。

 しかし、実はそこが問題なのです。プロの場合、コーナリングスピードだけを上げようと思えばいくらでも高めることが出来ます。

 では、なぜそうしないのか?

 それはコーナリングスピードを高めることよりも、その前後、すなわち減速と加速にこそラップタイム短縮のほぼすべての要素が詰まっているからです。

 もちろんこれは排気量や重量、そしてマシン特性によって左右しますが、基本はどれも一緒で、プロの中でもよほどのレベルでない限り「際立ってコーナリングスピードが速い人」というのは存在しません。

 自分で一緒に走った中でいえば、明らかにコーナリングスピードが速かったというのは、現WGP125ccのチャンプであるガボール・タルマクシくらいです。彼は600はおろか1000に乗っても異様なほどコーナリングスピードが速かった。その上で、減速区間、加速区間における仕事もしっかりこなしているというのが素晴らしかったわけです。

 ではそもそもサーキットにおける減速、及び加速とは一体なんでしょうか?

 加速するために減速はあり、減速するために加速がある、ということの繰り返しが、ひとつのクローズドコースの摂理です。

 しかしエンジンという原動力を得てラップタイムの向上を目指している以上「加速するために」がより重要なテーマとなります。極端に言えば「どれだけ効率よく加速体制に入れるか」だけが、タイムアップテーマなのです。

 これは排気量が上がれば上がるほど、すなわちパワフルになればなるほど、この傾向は強まります。

「速いバイクほど、直線を長く取ればその分長所を生かせる」

というわけです。

 トミンのようなコースの場合(筑波も然りですが)加速区間が非常に短く、コース幅も狭いため「250の方が速いのか、1000の方が速いのか」常に疑問が付きまといます。

 個人的には、それぞれしっかりとしたセットアップをして望めば、恐らくは大差ないレベルにまで拮抗することでしょう。

 しかしここで大事なのは「どちらがトミンとの相性がいいか」ではなく「どちらでも同じように走るにはどうすべきか」ということです。1000に乗りながら、しかし250と同じ走り方をしていては、当然250には勝てませんし、その逆もまた然りです。

 26秒5というタイムを現実的に考えた場合、相応の加減速感覚、そして技術が伴わなければ、それを超えていくことは不可能です。

 27秒台以降で推移している人たちを見た場合、ほぼ同じ傾向にあるが「メリハリのなさ」です。これはアクセルのオンオフ、ブレーキング、そして向きの変え方、加速体制の作り方などに対して言えることです。

 例えば瞬間的にハードブレーキングをする人がいます。恐ろしいほどの効力の立ち上げ方で、それこそリヤタイヤが浮き上がってしまうほどのストッピングパワーを引き出しました。ここまでは完璧です。

 しかしその結果「自分のスピードがどこまで下がっているのか」を把握できていません。そして倒しこみが遅れたり、或いはラフになり、結果的に向きを変えるタイミングを逸し、そのままズルズルと立ち上がりへと移行せざるをえなくなります。

 また異様なほど倒しこみが早い人がいるとします。倒しこむスピードだけでいえばロッシも真っ青というほど素早い倒しこみです。

 しかしそのときのマシンの挙動、そしてその後描くであろう定状円の奇跡をイメージ出来ていません。その結果、サスの動きにも反射できず、フロントサスの反力でマシンは浮き上がり、追加バンクしなければならない、という状態に陥ってしまいます。

 これらはすべて「実際には何のメリハリも持っていない」とうことになります。

 加速することを命題とした場合、減速区間は「誰かを抜くための場所」である以前に「より速く加速体制を整えるためのコーナリング、その大事なパートに突入する前に行う重要なアプローチ」であるわけです。

 ですから100%の握力でブレーキングを行うことなど(つまり非常にラフということです)ありえませんし、出来る限りソフトタッチで、なおかつ自分の現況を見極められるだけの減速Gにする必要があるわけです。アマチュアレベルで考えた場合、いくら突っ込みポイントで頑張ってみてもラップタイムの向上はほとんど見込めません。それよりも吐き気を催すようなリスクが膨大に膨らむばかりで、ちっとも楽しくありません。

 個人的には、例え30秒で走っていても25秒で走っていても「楽しくない」のであれば、絶対に何かを変える必要性があると思っています。それはマシンなのか人間なのかその時々で異なりますが、恐怖心とともにタイム向上を狙う、などということは、アマチュアの世界ではあまりあってはならない現象だと思っています。

 さてハナシを戻します。「どうやったら26秒3に到達できるか」を考えてみましょう。

 例えば28秒の人がいきなり26秒3をたたき出すことはほとんど不可能ですから、すでに27秒5を切るか切らないか、というレベルで走っている人を対象にして考えてみます。

 このタイム帯で走っている人たちは、おおよそコーナリングスピードには問題はありません。多少の速度差こそあれ、そこから抜け出せないのはコーナリングスピードが遅いから、ではありません。

 まず考えて欲しいのは、自分の感覚とマシンの挙動、そして実際の速度やラップタイムが合致しているか、ということです。つまり100%の走りをしているときとそうでないときに、自分の予想通りの動きであったり、或いはラップタイム推移をしているか、ということです。

 恐らく速く走ろうとした際に、思った以上に止まってしまったり、或いは倒しこみが速すぎてインつきが早まってしまったり、或いはアクセルを開いたらイキナリリヤタイヤがスライドした、というようなことが多くないでしょうか。

 タイムアップのための要はとにかく加速と減速、その大事なつなぎの要素として「コーナー」がある。ですからそこを出来る限り速く通過する、という意識を、まずはスッパリすてる必要があります。

 その上で、実際に直線区間でスピードが稼げているのかを知る必要がある。これは排気音でもいいですし、回転数やスピードメーターでもいい。とにかく「実際の速度」を知ることが大切です。

 そして「どうすればよりストレートエンドの(或いはコーナー進入前の)最高速度が上がるのか」を探らなければなりません。つまり、そのための大事な大事なアプローチが減速区間であり、実践区間がコーナリングに当たるわけです。

 一言でコーナリングといっても、厳密かつ大雑把にわけても、ひとつのR(半径)のコーナーでも「5つ」に分ける必要があります。

 一つめは、完全なる減速区間です。ここではしっかりとブレーキを握るだけではなく「どこまで、どれほど落とすのか」を瞬時に見極めつつレバーを握りこまなければなりません。

 二つめは、減速しながら寝かしこむ部分です。ここでは大まかなブレーキングはほぼ終了し、大事なライン決定をしなければなりません。

 三つめは、クリップへのバンキングです。そのコーナーの頂点となる部分へマシンをもって行く必要のある場面です。ここでの意識は完全に加速モードとなり、いかにコーナリングスピードを上げるのか、ではなかく、より効率的に加速体制に持ち込むためにには、どこをクリップにすべきか、またどんな角度、スピード、重心でそこへ向かうべきかを決めるパートです。ここがかなり大事な部分となりますが、恐らく27秒以降でラップ推移している場合には、残念ながらここでの集中力、或いは観察力が失しているといわざるを得ません。

 この三つめのパートにおける判断、操作というのは非常に細かく分類されていて、ブレーキレバーをリリースしているいないに関わらず、車速は落ちながら(つまり常に変化しながら)、その幅を正確に捉えつつ、インへと向かう体制を整え、ゆっくり、しかししっかりとフルバンクまで持っていく必要があります。つまり、この三つ目のパートの中だけも、およそ三分割に出来てしまうほどの内容なのです。

 アマチュアライダーの場合、二つ目と三つ目がほとんど混同されたまま加速区間に入る人が多いわけですが、時間軸、厳密な操作内容で考えれば、プロが行っているであろう5つの要素をほとんどひとつとして捉えている、ということになります。

 これがその後の四つめ、つまりクリップでの向き変え、そして五つめのリヤタイヤに全身全霊をかけてトラクションを与える、というパートに大きな影響を与えているわけです。

 この一つめから三つめまでがある程度クリアされると、26秒5ほどまで到達するはずです。逆にいえばそれらが自分の中で分割されることなく、ダラダラと走っている間はせいぜい26秒8〜9止まり、ということになります。

 さらにこの三つに四つめ、五つめが加われば、26秒2〜3というタイムが見えてきます。しかしこれをクリアしたのは、長年なし塾を開催してきた中で、アマチュアライダーでは石川選手ただ一人、ということになります。

 26秒台を自分のものにするためには、まず徹底的に「今、自分が何をして、その結果どうなったのか」ということを認識しなければなりません。その認識の積み重ねによるトライ&エラーの繰り返しでしか、26秒台を自分のものにすることは出来ません。

 例えば32秒で走っていたはずの人が、いきなりK−RUNの決勝で29秒台を出してしまうことはありますが、27秒5で走っていた人が、いきなり26秒5を出すことはまずないでしょう。

 ラップタイムというのは縮まれば縮まるほど、細かい認識作業と操作との擦り合わせ、繰り返しというものが必要になり、それらすべてが整った後で、僅かばかりの気合や根性というものが成立しうる部分があります。

 しかしこれはあくまでプロの領域であって、個人的にはアマチュアライダーの皆さんには、まず気持ちよく、楽しく、その上で安全に目標を持った上で走ってもらいたい、と思ってます。

 なし塾をはじめた当初は石川選手のような、つまりアマチュアで26秒3をたたき出してくるような人がいるとは思っていませんでしたが、彼のような存在が、また次の可能性を育むということも、レースの世界を通じて学んだことです。たった一人の素晴らしき突破者が、また新たなる壁を作り出し、そして別の突破者がそれを乗り越えることを夢見る。そういった部分が、レースの醍醐味そのものだと感じています。

 今後、どれくらい先になるかは分かりませんが、いつかサンデーレーサーが26秒3を切ってくれるであろうことを楽しみにして、今回はこの辺で。

2009.01.19 梨本 圭